◎独白
とつぜんからだのあちこちがあわだって、ぼくはたくさんのしゃぼんだまになった。
ぼくはこまった。 こんなからだではそとにあそびにでかけることもできない。こんなあしではあるくこともできないし、こんなうでではドアのノブをまわすこともできないからだ。それに、たとえそとにでたとて、ぼくのこのすがたをみたともだちは、ぼくをこわがり、きらいになってしまうだろう。ともだちでなくなってしまうだろう。 ぼくはこのまっくらなへやのなか、どこへもゆかず、ひとりで、とじこもっているしかなかった。しゃぼんはぶくぶくとふえつづけて、やがてへやいっぱいになった。
ぼくはさびしかった。
ところがあるひ、ぼくはきづいた。 ぼくのからだ、へやいっぱいにひろがったあわのひとつひとつがせかいをもっている!きみょうなかんじがした。このへやにいながらにして、せかいのあらゆるできごとをみわたすことができた。せかいはむすうにあった。たくさんのせかいがうまれてはきえてゆく。それらすべてのしゃぼんのあつまったものがひとりのぼくであり、ひとつひとつのしゃぼんもまたぼくじしんだった。ここにいること。それがぼくのやくめだったのだ。
ぼくはこどくであり、こどくではなかった。 ぼくのせいかつはすこしだけたのしくなった。
あるせかいにはぼくのことをしっているひとがいた。かれはしゃぼんのあわのなかからぼくのなまえをよんだ。ぼくはこたえた。そしてかれののぞみどおりに、かれのせかいのことやほかのせかいのことをたくさんおしえてあげた。こんなつまらないことをしりたがるなんて、かれはおかしなひとだ。ざんねんながら、ぼくのこのかんがえはほんとうのことになってしまった。かれはやがてきがくるってしんでしまったのだから。
べつのせかいにはぼくのことをこころからあいしてくれるひとがいた。かのじょはぼくのなまえをよんだ。ぼくはこたえた。だからぼくは、はれておとうさんになったのだ。 ぼくにはわかる。うまれてくるぼくのこどもたちはふたごだ。むすこたちはすぐにせいちょうし、おかあさんよりももっとじょうずなはつおんで、ぼくのなまえをよんでくれることだろう。ぼくはそのたのしいひとときをあやまってこわしてしまわないように、このくらいへやのなかでじっとみまもりつづけていくだけなのだ。
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