◎影朝起きて、おなかも空かないので遊びに出かけた。平日なのに、町はいつもより人が多い。空には水母のような透明なものが浮かんでいて、歩く私に手を振った。シルクハットの老人が、信号が赤に変わった横断歩道の真ん中にいつまでも佇んでいた。私は無愛想な服屋で夏らしい白いワンピースを買って、気前のいい本屋で500円の文庫本を買った。帰り途、本を読むために公園に寄った。ブランコに腰掛けて文庫本を開くと、ふと言いようのない不安に襲われたので後ろを振り返った。私には影がなかった。
◎モドル◎